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グルジンの物語

イラク、アクレ

 

グルジン・シャリフ・アジズは、床まである赤と白のドレスをくるくると回して見せ、誇らしげにほほ笑みました。ドレスは長袖で、かわいらしい襟がつけられ、銀の細身のドレスと重ねてあります。このドレスはグルジンが、デザイナーと洋裁の腕をふるって、作り上げたのです。

 

グルジンはシリア・カミシュリ出身ですが、今はイラク・アクレの難民キャンプで暮らしています。UNIDOの支援を受け、服のデザインと仕立てのビジネスを立ち上げました。

 

グルジンがもともと裁縫に惹かれた理由は、ミシンに興味を持ったからです。小さい頃から、ミシンの仕組みや修理にとても興味を持ちました。8歳の時に、父親が買ってきたミシンを分解し、組み立て直すことができました。そのため、母親に何を学びたいかを聞かれた時、彼女はすぐに裁縫を選びました。「服を作るよりミシンを使うことに興味がありました」と彼女は思い出します。

 

彼女の仕組みを理解することへの情熱は、服のデザインと仕組みにも向けられて、ファッションにも興味を持つようになりました。「いつも生地やドレスを見て、どうやって作ろうか考えていました。」

 

グルジンがシリアを離れたのは2013年4月20日、紛争が勃発した2年後でした。彼女は弟と一緒に、ドホークに何年も住む姉を訪ねました。シリアに帰る予定はありませんでした。グルジン、弟夫婦とその子どもたちはアクレ・キャンプに暮らし始めました。このキャンプはサダム・フセイン時代に作られた軍の兵舎を元にしたものです。

 

弟の家族の生計に協力するため、どんな仕事でもやり、ミシンを買うためのお金を貯めました。病院で10ヶ月、ショッピングモールで数ヶ月、そして市場でも働きました。

 

弟の家族と一緒に暮らしているため、彼女の使えるスペースはあまりありませんでした。家族は重なるように生活をしていました。2年前キャンプ・マネジメントにより、独立した部屋があてがわれ、ようやく自分のスペースを持つことができました。しかし、COVID-19禍のロックダウンで働くことができませんでした。

 

お金も仕事もなく、政府や支援機関からの援助に頼って生活をしました。「本当にお金が必要でした」と彼女は語ります。

 

その厳しい一年ののちに、UNIDOの起業家コースを受ける機会を得て、状況が変わりました。7年間、難民として生活してきて、やっと未来を思い描けるようになりました。

 

「UNIDOのトレーニングコースに申し込んだのは、アイロンや裁縫道具、機械など、縫製に関わる全ての道具が支援されるからです。」彼女はデザインや縫製のスキルには自信があり、スタートアップのためにわずかな支援だけを必要としていたのです。

 

オーストリア資金による15日間のコースでは、15人のシリア難民が訓練を受けました。開業を目的として、市場のニーズ分析や、販売戦略、会計の基礎などを学びました。

 

プログラムの最後に、スタートアップの機材支援を受けました。。グルジンはミシンを2台(1台は特別なステッチ用)、アイロン、アイロン台、テーブル、そしてハサミや糸などの道具を受け取りました。

 

開業によって、生計は安定しました。「日々の生活費はまかなえるので、今の稼ぎで十分です」

 

彼女は、キッチンとバスルームつきの一間の住居で仕事をします。フロアマットは壁際に寄せられ、自慢のミシンはドアの近くに置いてあります。窓際には製作中の服が掛けられ、壁には色とりどりの布が垂れ下がっています。

 

来店するお客さんは、同じキャンプの住人です。キャンプには1,000人ほどの人々が暮らしています。グルジンは普段着、礼装、シャツ、ズボン、カーテンまで縫うことができます。彼女は、お客さんの要望に合わせて一つ一つデザインを決めています。シンプルなデザイン、クルドの伝統衣装、流行りの服など要望は様々です。彼女はトレンドも追いかけており、あらゆる服を作ることができます。あるお客さんは、娘とお揃いのピンクの服を注文しました。リピーターはとても多いです。

 

「私の作る服が好きみたい」。そう言って誇らしげに微笑み、もう一つ製作中の、襟ぐりの広いフリル袖の緑のドレスも見せてくれました。

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