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ハザールの物語

イラクのバルダラシュ。作業場に火花が散り、金属を切るグラインダーの音が響きます。パイプが切断されコンクリートの床に落ちると、ハザール・アリ・フセンは工具を置き、安全眼鏡を頭上に押し上げて汗を拭きます。シートで作られた仮の作業場の青い光の中で、彼は微笑みました。ようやく仕事を再開できたと。

 

「長いブランクの後でも難しい仕事ではありませんでした。集中力と情熱がある限りは大丈夫そうです。」バルダラシュ難民キャンプの作業台のそばで彼は言いました。

 

ハザールの作業場はオーストリアのファンドによるUNIDO起業家育成プログラムの一環で提供されました。ビジネスと財務管理を学んだ後、工具や備品を受け取りました。すぐに、作業場を整備し溶接の仕事を始めました。

 

事業は順調で、わずか2週間でキャンプの中にもう一軒の店を構え、今では3軒目店も準備中です。キャンプ近くの町バルダラシュ修理店からも発注を受けられるようにしています。

 

ハザールにとって丁度良いタイミングで、プログラムは提供されました。「落ち込んでいた私を救ってくれました」彼は言います。

 

ハザールはシリアのカミシュリ出身です。子どもの頃から大工の父の仕事を手伝いました。「子どもの頃は毎日父を手伝っていました。」と彼は言います。父から手を動かして働くことの楽しさを学んだため、大学では、デザイン工学と機械工学を学びました。

 

卒業後、専門分野の仕事は見つけられず、自分の車でドライバーとして生計をたてました。2014年、シリア北東部の2つの都市を結ぶ定期路線で、ミニバスを運転していました。ある日、乗客としてシリアの軍人4人が乗車していた際、ISISの武装集団がバスを止めました。女性の乗客は全員解放されましたが、ハザールと4人の軍人は拘束されました。2ヶ月間拘束が続いた後、シリア軍人たちには殺害命令が出され、ハザールは解放されました。

 

彼は家族のもとに帰りました。その後、妻と娘、2人の息子を連れてヨーロッパに逃れようとしましたが、資金不足により叶わず、再び運転手として働き始めました。

 

2019年、新たな紛争がシリアで勃発しました。トルコが国境沿いのテロリストとみなしたグループへの軍事作戦を決行しました。ハザールは妻と子供たちをイラク北部に避難させました。当初は家族を呼び戻したかったのですが、代わりに車を売り、自分も難民として逃れる決意をしました。2020年1月26日の出来事です。

 

ハザールが、バルダラシュキャンプでの生活の苦労を語りながら、両手を組むと、指輪が光りました。その指輪とネックレスは、ISISに盗まれたものの代わりに、娘からもらったのです。

 

「1年間、私はひどく落ち込んでいました。家で座り込み、何もせずただ悩み続けていました。」夏の厳しい太陽と冬の冷たい雨の下、テントで暮らす家族をどう養うか、思い悩んでいたのです。長女は高校の最終学年で、息子たちは15歳と9歳です。

 

ハザールはUNIDOの起業家育成コースを受けたことで救われました。事業の運営や、顧客の探し方、財務管理の方法を学びました。コースの最後には数百ドル分の道具類が提供されました。

 

「UNIDOのトレーニングが受けられ、自分の作業場を持てることがすごく楽しみでした。仕事があるので気分が良いです。」

 

彼の仕事場には、作業の音に引き寄せられるようにキャンプの人々が集まります。「仕事を始めると、色々な人、特に子どもたちが、私の仕事を見にくるんですよ。」

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