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シャナズの物語

シャナズ・アブドゥルラザク・フセインは、デーツとピスタチオが入ったスパイス・クッキー「マームール」の生地を丁寧にこねています。クッキーに模様をつけ、トレイに載せオーブンに入れます。彼女は、イラク北部のバルダラシュ難民キャンプ内の小さな店で働いています。

彼女の菓子屋は、作業台とガス式オーブンだけの簡素なものですが、家族の生活は大きく変わりました。シャナズと7人の子どもたちは、シリアからの難民です。国連工業開発機関(UNIDO)の支援を受けて開店した菓子屋は、一家に生計の安定を、キャンプに住む約1万4千人の人々にはシリアの味をもたらしました。

2018年、シリア北東部の自宅近くまで爆撃が迫ってきた時、シャナズは夫とともに、子どもたちを安全な場所に避難させる必要があると考えました。

 

しかし、シャナズの夫は病気で、国境を越えてイラク北部のクルド自治区に家族全員で避難するためのお金がありませんでした。そのため、シャナズと子どもたちだけでの避難を決断しました。その時、一番下の子は、わずか生後2カ月でした。

「子どもたちには、いいところに行くんだよと言って、泣かないようになだめました。」と、シャナズは旅の様子を振り返ります。

イラクに着くと、家族はバルダラシュ・キャンプに案内されました。気候は暑く、子どもたちはキャンプでの生活に慣れるのに苦労しました。ある日、小さな息子が地面をはう生き物に触ろうとしていました。幸いなことに、手を触れる前に、誰かがそれがサソリだと気づきました。

シャナズの長男ザカリアは、11歳でしたが家族の役にたたなければと感じ、仕事をしたがりました。「ここに来てから、息子が紅茶やコーヒー、パンを売って働いてくれるし、できることはなんでもしてくれる。とてもありがたいです。」とシャナズはいいます。

ザカリアは一家の生活に必要なお金を稼いだが、そのせいで学校に行かなくなったため、シャナズは学校に戻さなくてはと考えました。

故郷のカミシュリではお菓子屋で働いていたシャナズは、キャンプでも同じことをしようと決めた。「キャンプにいる女性たちは、みんながお菓子を作れるわけではないから、きっと喜んでくれると思ったの。」

そこで、彼女はドラム缶でオーブンを作って、自分のテントで小さなビジネスを始めたのです。そして、キャンプマネージャーにお菓子屋を開く支援を依頼しました。UNIDOのオーストリア政府資金のプロジェクトで起業家養成コースに入ることができました。

15日間のコースでは、ビジネスプラン、市場調査、予算の立て方などを学びました。「私はいろいろな種類のお菓子を作ることができますが、何が需要があり、何が一番儲かるかわかるようになりました。」シャナズは学んだことを実践している。

研修後、UNIDOより、オーブン、ミキサーやはかりなどの機材や材料の提供を受けました。「今、私は子どもたちを養うために働くことができます。」
UNIDOのプロジェクトは、難民とホストコミュニティの雇用と生計の向上を目的に、ビジネスの立ち上げや拡大を支援していいます。

オーブンから、こんがりと焼けたクッキーを取り出すと、甘くスパイシーな香りが風に乗り、道行く人を店に呼び込みます。

糖尿病で食事制限のあるシャハは、ラマダン開けの祝日のため特別なマムールを注文しました。昨年は、材料を買って自分で焼いたが、手間もお金もかかってしまったそうです。今年は、シャナズのお菓子屋さんに満足しているそうです。

「キャンプにいても何でも手に入るのはいいですね。貧しい人たちでもここで買い物ができます。」と彼女は言いました。シャナズは注文の品を包装し、ザカリアはシャハにお釣りを渡しました

 

マームール、バクラヴァ、ラハム・バジーン(シリアの薄いピザ)、ハラウエ・ジブナ(甘いチーズ菓子)など、シャナズはシリアのさまざまな名物菓子を作ることができます。2週間前にオーブンを受領したばかりですが、ビジネスはとても順調です。毎日40〜50キロの焼き菓子を売っています。

彼女は、子どもの頃、母親に教わってお菓子作りを始めました。カミシュリのお菓子屋で働いて、彼女はプロの焼き方を身につけました。そして今、UNIDOの支援により、彼女の技術は、ビジネスとしてまわり始めたのです。

「私が作るものはすべてシリアの伝統と文化から生まれたものです」と、彼女は言います。バルダラシュ・キャンプのシリア人たちに、シャナズは故郷の味を提供しているのです。「お客さんはとても喜んでくれます。私たちは伝統的な食べ物や味を愛しているので。」

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